今回は、エルヴィスを見いだしたサムフィリップスの「思惑」について。
1-6「ロックンロール誕生前夜~Rockin' All Day」より続く

1935年ミシシッピー州のテュペロという小さな田舎町で生まれたエルヴィス プレスリーElvis Presleyは、その後引っ越したテネシー州メンフィスでシンガーになることを目指しながらトラックドライヴァーをしていた1953年に、地元のマイナーレーベル「サン」で自主制作のレコードを作った。それをきっかけにレーベルの白人オーナー、サムフィリップスに見出されてシンガーへの足がかりをつかんだ。

メンフィスにはビールストリートという黒人のジャズやブルースのクラブが軒を連ねている非常に音楽的な歓楽街があり、少年時代のエルヴィスは黒人のようなヘアスタイルやファッションで身を固めこの一角に入り浸っていたという。「サン」はレコーディングスタジオも兼ねており、非常に音楽が盛んなメンフィスという地域でのスタジオということもあり、B.BキングB.B King(B.BキングのB.Bとは「ビールストリートブルースボーイ」の略である)やハウリンウルフHowlin' Wolf等有名無名の様々な黒人アーティストが出入りしており、サムフィリップスはそれらアーティストとの接触の経験から当時のR&Bシーンのホットさを肌で感じていた。

彼もまたアランフリードやビルヘイリーのように白人社会では忌み嫌われているはずのR&Bに可能性を感じ、それが徐々に白人の若者に浸透しているのに気付いていた白人の一人だった。そのころの彼の口癖は、「ニグロの感覚で歌える白人の若者がいれば俺は億万長者になれるんだが」というものだったという。R&Bは絶対に全米の若者の支持を得ることができる、でも未だ保守的で差別意識の強い全米でそれを大きな規模で電波にのせたりするためには白人という「表層」が必要だ、というのが彼の言葉の意味するところだった。

2-2「エルヴィス登場~Brown Eyed Handsome Man」に続く

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