今回は、黒人向けのリズムアンドブルースがロックンロールへと細胞分裂しはじめる正にその瞬間のお話。
1-3「ロックンロール誕生前夜~Rockin' All Day」より続く

こうして白人のティーンエイジャー達の間でリズムアンドブルースに対する需要が高まってきた状況の中、オハイオ州クリーブランドの白人DJアランフリードが、レコード店で黒人のリズムアンドブルースを熱心に聞く白人のティーンエイジャーの姿を目撃する。リズムアンドブルースに可能性を感じた彼は、1951年に「ムーンドックスロックンロールハウスパーティー」というラジオ番組を始めた。彼は漂白されたサウンドの白人によるリズムアンドブルースのカバーレコードではなく、黒人によるオリジナルで本物のリズムアンドブルースを「ロックアンドロール」と紹介し、この頃から新しい音楽としてのリズムアンドブルース、ロックンロールの基盤が出来始めた。

元来「ロックアンドロール」というのは黒人の間では「セックス」や「バカ騒ぎ」を意味するスラングで、1940年代後半から50年代にかけてすでに多くのリズムアンドブルースのタイトルや歌詞に使われ始めた言葉だった。一説では古いブルースの曲の中の「My baby rocks me with a steady roll」という歌詞をヒントに作られた言葉と言われているが、それはともかく、この時期ロイブラウン Roy BrownワイノニーハリスWynonie Harris の「グッドロッキントゥナイト/Good rockin' tonight 」(1948年)ジョーターナーJoe Turner「シェイク ラトル アンド ロール Shake, Rattle and Roll 」(1954年)、クラレンス“ゲイトマウス”ブラウンClarence "Gatemouth" Brown「ロック マイ ブルーズ アウェイ Rock My Blues Away 」(1955年)ゴリーカーターGoree Carter「ロック アワイルRock Awhile 」(1949年、イントロのギターフレーズがチャックベリー的)等多くの曲に「ロック」や「ロール」、それに類する「シェイク」や「ロッキン」「ジャンプ」「ジャイヴ」などといった単語が並べられていた。

その他にもジャッキーブレンストン&ヒズデルタキャッツJackie Brenston & His Delta Catsの「ロケット88 Rocket 88 」(1951年リズムアンドブルースチャート1位、この曲をロックンロールの第一号とする説もある)やビリー "ザキッド" エマースンBilly "The Kid" Emersonの「レッドホット Red hot 」タイニーブラッドショウTiny Bradshow「トレイン ケプト ア ローリン Train Kept A Rollin' 」(1952年、後にジョニーバーネットやヤードバーズ、エアロスミス、モーターヘッド等がカバー、ライヴアンコール等でロックの定番曲)ルイプリマLouis Prima「ジャンプ ジャイヴ アンド ウェイル Jump, Jive, An' Wail 」(1956年)、黒人Doo wopコーラスグループのドミノスDominos「シックスティ ミニッツ マン Sixty minute man 」等この時期にリズムアンドブルースの世界ではリズムがハッキリとした激しく踊れるサウンドが人気だった。

こうして、黒人達にしてみれば単に「踊りやすく激しいビートのリズムアンドブルース」を「ロックアンドロール」と名付け白人ティーンに向けて発信し始めたアランフリードは、DJ稼業の他にもロックンロールのアーティストを集めてライヴを企画したりと黒人のためのものだったリズムアンドブルースを白人、とりわけティーンエイジャーの間に浸透させる要因に一役買う存在となった。

参考動画 

ロイ ブラウンのグッドロッキントゥナイト。後にエルヴィスのカバーバージョンで有名になる曲。個人的にはエルヴィスのを先に知っていたのだが、コレを聴いた瞬間何故サン時代のエルヴィスが後年とは少し印象の異なる甲高い感じで歌っていたのか謎が解けました。この人の真似をしてたんでしょうね。憧れのブラックブルースシャウターに追いつこうと「なり切る」19歳のエルヴィスを想像すると微笑ましいです。

 

ゴリーカーター ロックアホワイル。一部ではチャックベリーの元ネタとして、又レイボーンの登場で俄然注目を浴びたテキサス系ブルースギタリストの元祖として知られるTボーンウォーカー直系のギタリスト。チャックベリーの例のイントロはこの曲もさることながらTボーンの曲やその他この頃のギター系ブルースの多くの曲であんな感じのフレーズが使われまくっていたようなので、もはや誰が誰をパクったかわからないような状態、というのが結論ぽい。



ジャッキーブレンストン ロケット88
タイトルの「ロケット88」は、当時そこまでお金を持ってないような若者でも頑張れば買えて、しかもボロい中古やオッサン向け車ではない、オールズモービル社の車の事。50年代のアメリカではストリートレベルの黒人でも車を買う事が出来るぐらい豊かでポジティブな空気があった、と言う事なのでしょう。思いっきり酔っ払い運転を連想させるような歌詞を含んでおり、酒の事を歌うだけでもイケナイ時代なのに、「黒人が飲酒運転やらスピード違反をする内容の曲」と言う事で、とんでもなくインモラルな曲だった事が伺えます。


ドミノス シックスティミニッツマン

ロックンロールやリズムアンドブルースを語る上で忘れてならないのがドゥーワップの存在。音楽をやりたい若者がとりあえず集まって身一つで何かやる・・・ならばコーラスが一番・・・・と言う事で元祖ストリートミュージック≒ガレージミュージック≒ロックンロール、というわけです。さっきのロケット88は酔っ払い運転で良識派にケンカ売ってましたが、こちらは絶大なテクで幸せな家庭を崩壊に導く間男の歌。イケメンぞろいのアイドルちっくな少年~青年が「騙されたと思ってオイラを試してみなって、あんたきっと大声上げちゃうヨ、15分ずつ4段階で天国行きサ」みたいな事を歌うトンデモソング。直接的に卑猥な単語はいっていませんが、仮に同じ内容の歌が今かかっても「え、まじ?」と思う事でしょう。そういう事を認識した上でもう一度聞くとボーカルやギターのフレーズが悪魔的にねちっこくイヤらしく聞こえてきます。ちなみに3年後の54年には、ご丁寧に「もう年喰った上にやり過ぎて種無しみたいになっちゃったから例の"60ミニッツ”はもう無理ぽ、そういうやらしいんじゃなくてただのお友達になってね」みたいなまるで別人のようなCan't do sixty no moreなる曲も出してます。

音楽的なことを言うと、明確に2,4拍にアクセントを置いているので、ロケット88よりこれが最初のロックンロール、という話もあるらしいです。更にピアノイントロが何気なくカウントの3拍裏から入りギターも1拍裏拍から入る辺りがさすが黒人です。バンドで演奏するとなると出だしに非常に気を使うパターンです。


もうダメぽ、の方


1-5 「ロックンロール誕生前夜~Rockin' All Day」に続く

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